パリを駆け抜けるビジネスマンズ・エクスプレス
パリやミラノなどヨーロッパの街を歩いていると、スクーターで通勤するビジネスマンの姿をよく見かける。たいがいはスーツやジャケット姿で、冬の寒い時期にはその上にコートやマウンテンパーカなどを羽織り、背筋をピンと伸ばし颯爽と走っていく。
東京ほど地下鉄などの公共交通機関が発達していないこともあるが、欧州では二輪車、とくにスクーターが都市におけるコミューターとして定着しているのだな、と感じる。街の至るところに駐輪スペースがあるのもその証明だ。いずれにせよ、満員のギュウギュウ電車に比べてずっと “自由”に思えるその通勤スタイルは、なんだかとてもカッコよく見える。
そんな欧州はフランス生まれのスクーターに試乗した。クルマ好きには馴染み深いブランド、“プジョー”の『シティスター125』だ。プジョーは二輪メーカーとしての歴史も長く、最初のモーターサイクルを発表したのは120年前に遡る。そして今も小型スクーターを中心に生産を続けている。
プジョーのスクーターで、近ごろ注目されているのは1950年代のモデルをモチーフとしたレトロなデザインの『ジャンゴ』だ。しかしこのシティスターはそれとは真逆。モダンでシャープなデザインにモノトーンのボディカラーを纏った、いかにも“ビジネス・エクスプレス”という雰囲気のモデルだ。
実車を前にした瞬間「え?」と思ったのは、125ccとは思えないその車格感。何も知らずに見たら250クラスと間違えそうだ。そのサイズのメリットは、走り出した後に知ることになるのだが。
“プジョー”らしさを感じさせるディテール
シティスターには、四輪車のプジョーとの繋がりを感じさせるディテールがいくつもある。まずはなんといっても大きな“吊り目”のヘッドライト。2つのライトに挟まれた部分はクルマのグリルのようなデザインになっていて、その中央にはプジョーのアイコンである「ライオンマーク」が鎮座する。
LEDを内蔵したテールランプの造形もクルマっぽいが、極め付きはライダーが常に目にするメーターまわり。左に速度計、右に回転計の二眼式で、その間に距離、燃料、時刻などのデジタル表示部があるのだが、その配置やデザイン、質感がいかにも「四輪メーカーがつくりました」という雰囲気なのだ。ちなみにメーターには回転計の針が反時計方向に逆回転する、というギミックも盛り込まれている。
今回試乗したのは2台。水冷4バルブエンジンを搭載し、ブレーキに前後連動ABSを装備する上級モデルの「シティスター125 ブラックエディション ABS」と水冷2バルブエンジンを搭載するベーシックモデルの「シティスター125 スマートモーション」だ。
石畳に鍛えられたスウィートな“猫足”
まずマットブラックのボディがクールな「ブラックエディション ABS」で走り出すと、そのエンジンのスウィートさに感心した。単気筒とは思えない滑らかさで、高回転域までじつにジェントルに回る。大柄な車体は日本の125ccクラスより重たいが、それを補うのに十分なパワーがあり、街中を走ってもどかしさを感じる場面はなかった。
そして最大の美点は乗り心地のよさだ。その立派な車格と重さがよい方向に作用して、落ち着いた乗り味を生み出している。四輪の世界では、石畳の道路に鍛えられたフランス車の「乗り心地のよさ」には定評がある。路面の凹凸を巧みにいなして走るその足まわりのしなやかさに、二輪のシティスターにもプジョー流の“猫足”が受け継がれているのを感じた。
もう1台の「スマートモーション」は水冷2バルブエンジンを搭載する。ブラックエディションに積まれる4バルブエンジンに較べると、振動や音などに粗さはあるが、アクセルを開けたときのダッシュは力強く、ストップ&ゴーの多い街中では俊敏さを発揮してくれる。高回転までスムーズに回る4バルブ、低回転域から活発な2バルブ、といったキャラの違いはあるが、個人的には4バルブエンジンの上質さが印象的だった。
足まわりは2本サスペンションのブラックエディションに対しこちらは1本サス。しなやかな乗り心地の2本サスに比べ、スマートエディションは欧州車らしいカチッとした乗り味にセッティングされている。
原二で味わえる、ちょっと上質な世界感
2台のシティスターに乗って感じたのは、125ccらしからぬ大柄な車体から受ける印象に違わず、走らせても1クラス上の余裕や鷹揚さがあるということだ。大きなフロントカウル、たっぷりとした厚みのあるシート、ヘルメット+αを収納できるシート下スペースなど、装備やユーティリティも充実しているし、各部の仕上げの質感も高い。
そのぶん価格は同クラスの国産車と較べれば高いが、原付二種免許で乗れる125ccクラスの中でも、ちょっとラグジュアリーで大人っぽいモデルが欲しいという人にはお勧めできる。
フレンチ・ブランドらしいシックなデザインは、スーツやジャケットスタイル、あるいはちょっときれい目なカジュアルファッションが似合うだろう。跨るだけで“伊達オトコ”に見える? というプライスレスな価値もこのシティスターの魅力だ。
協力 プジョーモトシクル(ADIVA)
《河西啓介》
引用元:https://response.jp/article/2019/01/16/318088.html
車両について詳しく知りたい方はこちら。↓